会社全体とそこで働く個人の両方にとって、株式の上場は素晴らしい機会であるだけでなく、不確実な時でもあります。
変化は必ずしも悪いことではありませんが、不安定になることがあります。会社が新規株式公開(IPO)までのステップを踏むにつれ、以前の確実性が失われます。あるいはその喪失が見込まれることで、一部の従業員は将来を案じ、退職が頭をよぎることでしょう。
会社の視点から言えば、上場の魅力の一部は、IPOが流動性資金調達の場となることですが、このプロセスの前後で絶対に避けたいことは重要な従業員の流出です。上場に関連する騒動の中で、貴社と、かつて上場の反対側にいた株主は、重要な役員や他の従業員を持ち、高水準のパフォーマンスを続けることから生じる安定の価値を評価するでしょう。
個々の従業員は、自分にとって会社が上場したということが何を意味するのだろうと思い、株式報酬に考えが及びます。上場企業の株式プログラムの扱いは非上場企業とは異なり、最初に従業員がその事実を知らなくても、気付くまでにそう時間はかからないでしょう。とはいえ、同僚から半ば事実となった噂で聞くより、会社から聞く方が良いでしょう。
「報酬哲学」の策定
それでは、上場企業になるまでの道のりで企業が直面する主な課題の1つは、上場が社内の株式報酬の慣行に与える意味について、自身と従業員に情報を提供することです。それ以外には、全体のビジョンを文書化し、重要な従業員を安心させ、従業員のリテンションを管理する望ましい効果がある詳細プランを呈示することが重要です。
これを念頭に置き、会社はIPO前に時間を作り、IPO後に役員やその他の従業員に報酬を支払う方法のあらゆる面を説明する報酬哲学を作成します。ここでのポイントは、上場後の報酬の取り決めは、同じセクターの他の上場企業に引けを取らないようにするということです。
これには、競合企業の「同業者グループ」を特定し、従業員報酬に関するそれぞれのアプローチを設定し、それをベンチマークとして使用し、自社の慣行に対する変更が他の企業の計画と同じレベル、理想的には上回るようにします。
人材を維持するインセンティブ(IPO後)
重要な従業員を維持するためには一時的なインセンティブ以上のもの、戦略が必要
長期インセンティブ(LTI)は、事実上のIPO後の株式報酬戦略の中心になります。これらのインセンティブは継続する傾向があり、おそらく毎年見直され、更新されるでしょう。非上場企業は通常経営方法が異なります。非上場企業は、設立者や主要役員に有利な条件で早期にストップオプションを発行するかもしれません。これは条件によりますが、会社に長期間勤務する個人にとってインセンティブとして機能することが意図されています。
上場する時に初期の従業員がまだ在籍している場合、上場が順調にいくと仮定すれば、多額の利益を手にすることができます。しかし、会社が1回のオプションを付与し、そのオプションをいったん行使したら、その後はどうなるでしょうか?
従業員がオプションを行使して売却すれば、それまでの従業員のリテンション力が消滅するのは明らかです。その時点で、その従業員が取引で巨額の利益を手にしても、退社する場合、「最近私に何をした?」的なシナリオになります。
このようなシナリオを避けたい上場企業は、定期的に株式報酬制度を見直したり、LTIを継続的となる方法で構築し、長期的な関与と従業員のリテンションを促進するようにしています。
非上場企業は通常、オプションを重視するのに対し、上場企業は業績連動型株プランや譲渡制限付き株式(RSU)も提供します。
企業は、実績連動型株式報酬をLTIの重要な部分として使用するようになりましたが、IPO後まもない時期に使用することは少ないようです。会社は、業績連動型株プランに必要な複数年のパフォーマンス目標を設定する前に、上場企業に合わせて調整する必要があります。そのため、少なくとも最初の2、3年間は、企業はストップオプションとRSUのみに依存する傾向があります。しかし、これができたとしても、米国の全上場企業では、上級役員のLTI株式構成の中で業績連動型株プランは約50%です。
上級役員への株式付与によるリテンションマネジメント
IPOの時期に上級役員を取締役会に引き留めたい企業が取るもう1つのアプローチは、1回限りの多額の株式報酬を提供することです。そのような報酬の1つは設立者の報酬です。ここでは、報酬は一般的に、既存の上場企業の同業者に期待されるようなレベルまでこれらの個人の保有率を高めることを目的としています。その他に、所有者がこのアプローチを選好するのは、a) 近年目立ったオプションの付与がなかった、および/またはb) 上場時に、大半の既存の報酬の権利が完全に確定する場合です。これは、従業員のリテンションマネジメントにおいて重要なインセンティブとなりえます。
同様に、一部企業は特別に対象を絞ったリテンションインセンティブを選好するでしょう。そのようなプランは、IPOプロセスに関連して追加業務をこなした従業員や、特定の従業員のリテンションリスクがあるとされた従業員を対象とします。
また、一部企業は、上場前に1回のIPO株式報酬を全従業員に付与することを選択するかもしれません。このような広範な株式付与は、株式所有者のつながりを作り、従業員全体の団結を育むことを目的としています。
サドン・ウェルス・シンドローム
上場後の従業員のリテンションマネジメントに関し、重要な従業員が困難な時期に退職しないことを確実にすることに焦点が置かれるのは理解できますが、もう一つ、サドン・ウェルス・シンドロームについても検討する価値があるでしょう。このシナリオでは、会社の初期からの従業員で、有利な条件で株式オプションを持つ場合は、上場の成功を受けて、一夜にして裕福になりました。一部の人は、この変化にうまく対応しますが、そうでない人もいます。中には、ずっと勤務して成果を出しつづけ、大金の罠にかからない人もいますが、獲得した金額にもよりますが、働き続ける意志はあるものの、集中と意欲の維持が困難になり、退職して田舎のビーチに隠居してしまう人もいます。
従業員が独立して裕福になる時、株式の追加という形式で金銭的な報酬を与えることには理想的な効果がないかもしれません。重要な役員が大金を持って引退したいと決心したら、ほとんどなすすべはありません。しかし、このシナリオは、IPO後に、大金が入ったとしても人々の仕事に対する意欲を維持する方法を探す必要があることを示しています。純粋に外的な(金銭的な)の関心に働きかけるのではなく、本能的なレベルの動機(意義や個人的な達成感)で人々とつながることかもしれません。
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